ワイヤレスマイクの多数波効率的運用方法
- 2007.06.10
- WL

とある方から、プロのエンジニアでもワイヤレスマイクの使い方を間違えているので、無線家の立場からワイヤレスマイクの効率的使用方法をサイトで書いて欲しいとの要望があり、書くことにします。ワイヤレスマイクというのは、800MHz帯にある免許が必要なA/A2(AX)帯と言われているもの及び免許不要なB帯と呼ばれているものを指します。
*プロでもワイヤレスマイクの使用方法を結構知らない…
プロでメシを食っているお方でも、よく音切れさせているケースを何度も見ています。ワイヤレスマイクでの音切れは、場合によっては大事故として扱われます。演出家から見れば、音声のエンジニアのせいで折角の舞台が台無しだと。
その腹いせに、メーカーの人間を怒鳴りつけたり、「慰謝料をよこせ」とか言っている大人げないエンジニアもいるようです。確かに自分の評判を落とせば、仕事は来なくなるという事情は分かりますが、演出家の言っていることは正しく、悪いのは音声のエンジニアなのです(まれにメーカーの出荷した製品が不良品だったりと、悪い場合もありますが、それはレアなケース)。この書き込みが参考になり、みんながハッピーになれることを期待しています。
*送信機は重ねない。これ基本!
出演者に送信機を効率よく渡せるように、箱に送信機を重ねて置いているエンジニアをお見受けしますが、これはダメダメ。頻度は異なりますが、送信機同士の相互変調歪が発生し、変なchで電波が出てきます。ブースターアンテナなどで感度を上げていたりすると、更に事態は悪化します。
どうしても送信機を重ねたい場合は、重ねて置いている送信機のフェーダーは必ず落とすなりして、音声をミュートさせてしまいます。
*チャンネルプランは慎重に
プロと呼ばれている方々は、特定ラジオマイク利用者連盟にて配布しているチャンネルプランを作成できるツールで、サクッとチャンネルプランを作成している方々が殆どだと思います。
それで終わりにはなりません。というのも、デジタル卓などワイヤレスマイクのバンドにノイズを発生するケースがあるからなのです。当然、ワイヤレスマイクを使ってのリハーサルは行われるでしょうが、その際は、ノイズチェック云々という理由で本番と同じ状態にすることをお勧めします。可能であれば、スペクトラムアナライザーを用意して、会場内の電波状況を確認すると、尚ベターです。
また、A/A2(AX)帯で許可されているイヤモニターを同時に使う場合は、せめて500kHzの間隔となるようチャンネルプランを検討してください。バンド内の端と端に寄せるのが賢い使い方です。
*ブースターアンテナは多数波運用では向かない
よく長い同軸ケーブルを引っ張った際、ケーブルのロスを補うためにという名目でブースターアンテナを使用する向きがありますが、これは全くの間違い!メーカーでも結構間違った説明をする場合も見受けられます。
ブースターアンテナは、数波程度しか使わず、アンテナが遠くにある場合、高感度受信したい時に使用するものです。
それでは、ブースターアンテナで多数波運用したらどうなるか。怖くて言えません…というのは冗談で、電波の強さによっては相互変調歪を発生し、あらぬ周波数で不要電波が出てきます。それで、出演者の動きによって、「ピー」とか「ザー」とかいうノイズが出てきます。舞台は台無しです。
多数波運用する際、ケーブルを長くする場合は、ケーブルの長さを調整し、ケーブルの間にラインアンプを挿入します。多数波運用で高感度受信したいのであれば、八木アンテナなどブースターがないアンテナと併用します。その際は、相互変調歪が起こらないように、ケーブル長を調整します。
RAMSAのダウンコンバート式も同様なトラブルが起こる可能性がありますので、使用の際は充分気をつけてください。
*ブースターアンテナを舞台に設置しない
舞台にブースターアンテナを設置している向きがありますが、近すぎて先程述べたように相互変調歪が起こります。確かに舞台のように鉄骨があるため800MHzの電波ではどうしても音切れしてしまうため、アンテナを舞台に近くした方が音切れしにくくなるのは事実です。しかし、相互変調歪の問題があるため、ブースターアンテナはお勧めできません。
どうしても舞台側にアンテナを立てたければ、八木アンテナやホイップアンテナなどを使い、舞台全体をカバーできるよう設置してください。こういうことは関係者の方々の協力なくしては実現できませんので、関係者との関係も密にしておいてください。
*送信機の仕込み具合によっても飛びが異なる
電波を使っている関係上アンテナに人体が触れると、どうしても電波の飛びが悪くなります。衣服を身に着けていてもです。出演者が着物の場合、紐の付いた送信機入れを作り、それを初めに巻いてもらい、帯を巻くということをされている方もいらっしゃるようですが、アンテナは、必ず衣服の外に出すようにしてください。アンテナがない送信機を着物の帯に仕込む場合は、できる限り外側に仕込み人体の影響を減らすようにしてください。
演出云々といって電波の飛び具合が悪くなるような使い方をすると、大事故になってしまいます。演出家もよい舞台を行うのであれば、何でもかんでも現場任せではなく、そういった細かいことも知り、演出に取り入れるべきです。
*多数波を使う場合は、アンテナスプリッタとの併用も
SONYやオーディオテクニカからアンテナスプリッタが発売されています。高額ではありますが、多数波運用する場合は必要となるものです。
アンテナスプリッタとは各バンドにフィルタを掛け、それぞれのバンドで出力するものです。それを使えば、チャンネルプランの組み方や周囲の状況によっては、実に30波以上の使用も可能となります。
また、携帯電話の基地局などが設置されている場合、ワイヤレスマイクに基地局からの電波が混信するケースがあります。アンテナスプリッタを使えば、それらの心配も少なくなります。
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