
「手持ちのデジタル簡易無線、改造すれば82チャンネルにできないかしら…」
増波の話を聞いて、買ったばかりの無線機が型落ちになったと感じた方も多いはずです。
この疑問に、第一級陸上無線技術士の私が、メーカーの公式回答と技術の両面から答えます。



結論から言えば、改造による82ch化は技術の問題ではなく手続きの問題で行き詰まります。
そして多くの方にとって、今の無線機を買い替える必要はありません。
その理由を、一次情報を引きながら順番に説明していきます。


記事を書いた人
【きのぴぃ】
- CB免許廃止前にサイタマAD720/AE215のコールサインを取得。〇〇年にわたり細々と無線活動中。
- 電気工事士・第一級陸上無線技術士などの資格を持ち、電気・無線が得意です。
- 電波新聞社 月刊「ラジオの製作」元ライター フリーライセンス無線を主軸にガジェット記事を執筆
- 電波新聞社 アマチュア無線受験マニュアル企画記事担当
- マガジンランド 月刊「Let’s HAMing」元ライター
結論:30ch機を82chに改造することは現実的にできません
最初に答えを出しておきます。
- メーカーは30ch機を82ch化する改修サービスを提供していない
- 理由は技術ではなく、別の技適と識別符号を取り直す必要があるという手続きの重さ
- 自分で改造すれば技適が通用しなくなり、電波法違反につながる
- ただし手持ちの30ch機はこれからも使える。廃棄する必要はない
- 82chがどうしても必要なら、対応機を買い足すのが唯一の現実解
手持ちの機械をどうするかは、次の3択に整理できます。
| 選択肢 | できること | かかる費用 | 法的な扱い |
| ①そのまま使い続ける | 従来の30ch(上空5ch)で運用 | 追加費用なし | 適法 |
|---|---|---|---|
| ②改造・改修する | 現実的な手段が存在しない | 別の技適と識別符号の取得が必要 | 無資格の改造は違法 |
| ③82ch対応機を買う | 82chをフルに使える(上空15chは受信のみの機種が多い) | 機器代+登録の手続き | 適法 |
②が消えるため、実質は①か③の二択になります。



「改造できないなら全部買い替えか」と思いがちだけど、そこは早合点しないでね。
そもそも何が増波されたのか
話の前提として、何がどう増えたのかを正確に押さえておきます。
それぞれ見ていきましょう。
登録局は30ch→82ch、上空用は5ch→15chに
私たちが「デジ簡」と呼んでいる351MHz帯の登録局が、今回の主役です。
地上専用のチャンネルが30chから82chへ、上空利用が5chから15chへ拡大しました。
合わせて97chという表記を見かけるのは、この82と15を足した数字です。
施行は令和5年6月1日です。「最近の改正で増えた」と書かれている情報を見かけますが、増波そのものはこの日付で施行済みです。
免許局も65ch→75chに増えている
意外と知られていないのが、460MHz帯の免許局も同時に増波されている点です。
地上専用が65chから75chへ増え、さらに中継利用の20ch(10ペア)が新設されました。
登録局の話だけを追っていると見落とす部分でしょう。



免許局を使ってる事業所さんは、こっちも確認しておいたほうがいいね。
全体では100chから192chになった
登録局と免許局を合わせると、簡易無線全体で使えるチャンネルは大きく増えています。
総務省の資料では、合計100chから192chへと整理されています。
| 対象局 | これまで | これから |
| 登録局 350MHz帯(地上専用) | 30ch | 82ch |
|---|---|---|
| 登録局 350MHz帯(上空利用) | 5ch | 15ch |
| 免許局 460MHz帯(地上専用) | 65ch | 75ch |
| 免許局 460MHz帯(中継利用) | なし | 20ch(10ペア) |
| 合計 | 100ch | 192ch |
登録局は最大5W、上空利用に限っては最大1Wという出力の条件も付いています。
増波後の登録局の周波数
増波後の登録局が使う周波数は、351.03125MHzから351.63125MHzまでです。
移動範囲は、地上と中継利用が全国の陸上および日本周辺海域とされています。
上空利用はこれに加えて、その上空までが範囲に含まれます。
増波した簡易無線(中継利用を含む。)の使用には、新規の無線局の免許若しくは登録又は既存の無線局の変更許可若しくは変更登録等の申請が必要です。
メーカーは改修サービスをしてくれるのか
ここが本題です。
メーカー自身の言葉を見ていきます。
アルインコは公式に「対応していない」と告知している
この疑問には、すでにメーカーからはっきりした答えが出ています。
アルインコが公式サイトで、30ch機を82chに拡張するサービスは行っていないと告知しました。
弊社ではそのような対応は致しておりません
希望的観測ではなく、メーカー自身が明言している事実として受け止めるべきでしょう。
理由は「時間、手間、費用、すべてが非現実的」
注目したいのは、その理由の説明です。
周波数の拡張は「重要な定格の変更」にあたり、別の技適と識別符号(CSM)を取得しなければなりません。
個人ユーザーが手続きを進めること自体は理論的に可能でも、実現は不可能とされています。
ここが本記事で最も重要な点です。アルインコは「技術的に不可能だ」とは言っていません。挙げているのは「時間、手間、費用」という手続きのコストです。
他メーカーでも改修サービスは確認されていない
では他社ならやってくれるのか、という期待も持ちたくなります。
しかし現時点で、30chタイプを82chタイプへ改修するサービスを実施しているメーカーは確認されていません。
1社だけの事情ではなく、業界全体で同じ判断になっていると見るのが妥当です。



待っていれば誰かがやってくれる、という話ではなさそうなんだ。
技術的には本当に無理なのか
ここからは無線技術士として、中身の話をします。
- ソフトウェア改修だけで増波できる可能性は高いと私は見ている
- 理由①:VCOが極端に狭帯域とは考えにくい
- 理由②:各社が短期間で増波対応品を投入できた
- それでも実現しないのは「認証の壁」があるから
- 仮に第三者が改修するなら必要になる工程
なお以降は私の技術的な推論であり、メーカーの内部仕様を確認したものではありません。
ソフトウェア改修だけで増波できる可能性は高いと私は見ている
先に見立てを述べると、旧機種であってもソフトウェアの改修だけで周波数の増波に対応できる可能性は高いと考えています。
つまり「ハードを作り直さないと無理だから改修しない」という話ではない、ということです。
根拠を2つ挙げます。
理由①:VCOが極端に狭帯域とは考えにくい
1つめは、電圧制御発振器(VCO)の帯域です。
VCOが極端に狭帯域だと、ソフトをいくら書き換えても新しい周波数帯はカバーできません。
ただ、旧機種がそこまで狭いVCOを積んでいるとは考えにくいのです。
近い周波数を使う業務用無線機が他にも存在するためです。部品を共通化していれば、旧周波数しかカバーできないほど狭帯域なVCOを選ぶ理由がありません。部品共通化は在庫管理や生産効率の面でもメリットが大きく、メーカーが採らない手はない設計判断です。
理由②:各社が短期間で増波対応品を投入できた
2つめは、増波対応機が市場に出てきたスピードです。
無線機を一から開発するには、相応の時間とコストがかかります。
それにもかかわらず各社が驚くほど早く対応品を並べられたのは、内部構造を旧機種と共通にしてソフトで対応したからだと考えるのが自然でしょう。



つまり中身は、思っているほど別物じゃない可能性が高いんだよね。
それでも実現しないのは「認証の壁」があるから
ここで、私の技術的な見立てとアルインコの回答がきれいにつながります。
アルインコが挙げた理由は「重要な定格の変更にあたり、別の技適と識別符号が必要」というものでした。
これは技術の壁ではなく、認証の壁です。
ソフトの書き換え自体は可能でも、周波数が変われば技適を取り直す必要があります。
測定・申請・認証機関とのやり取り・実機を持ち込んでの試験と、工程は新機種の認証とほとんど変わりません。
1機種あたりにかかる時間と費用が新機種を出すのと大差なくなるなら、企業として旧機種の改修を選ばないのは合理的な判断だと言えます。
「メーカーが出し惜しみしている」という単純な話ではない、というのが私の理解です。
仮に第三者が改修するなら必要になる工程
認証の壁がどれほど厚いか、工程に分解すると見えてきます。
- 既存機の動作を解析し、どうプログラムを組むか検討する
- マイコンを調査する。ワンタイムなら置き換えと回路変更まで必要になる
- 対応する開発ツールを用意し、プログラムを作成する
- 測定器で技適に通る特性かどうかを確認する
- 申請書類をまとめ、認証機関へ申請して打ち合わせを行う
- 認証機関へ実機を持ち込んで試験を受ける
- ここまで済んで、ようやくユーザーが総務省へ申請できる
個人が1台のために踏むには、あまりに重い工程だと分かるはずです。
アルインコの言う「時間、手間、費用、すべてが非現実的」とは、まさにこのことでしょう。
自分で改造したらどうなるのか
認証を通さずに手を入れた場合の話もしておきます。
順に確認します。
技適の識別符号ごと変わる「重要な定格の変更」にあたる
周波数を変える行為は、無線機の重要な定格を変えることを意味します。
そのため、もとの技適はその機械に対して通用しなくなります。
見た目に技適マークが貼られていても、中身が変わっていれば意味を持ちません。
本記事では改造の具体的な方法は一切扱いません。手順を知ることに意味がないうえ、実行すれば法に触れるためです。
無登録での運用は電波法110条の対象
登録のない無線局を開設したり運用したりした場合の罰則は、電波法に定められています。
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
ここで注意したいのが刑名です。
刑法の改正により懲役と禁錮は拘禁刑へ一本化されており、電波法の全文を検索しても懲役という語は出てきません。
「一年以下の懲役」と書かれた解説が今もネット上に残っていますが、現行の条文とは異なります。
技適マークのない無線機を使うのと同じ問題になる
改造機を運用することは、技適マークのない無線機を使う行為と本質的に変わりません。
技適マークのない無線機は、国内の技術基準に適合しているという裏づけがない状態です。
他の無線局への混信や、業務通信の妨害につながるおそれもあります。



自分だけの問題じゃなくて、周りの通信を壊しかねないのが怖いところ。
30ch機は捨てなくていい
ここまで読んで気を落とした方に、良い知らせがあります。
買い替えを判断する前に、必ず読んでください。
増波前の機種も引き続き開設できる
総務省は、増波前の機種についてもはっきり触れています。
包括登録は増波後の全てのチャネルでの登録をお勧めします!(増波前の機種も開設可能です。)
30ch機が使えなくなるという話ではありません。
82chの包括登録があれば30ch機も範囲内で運用できる
包括登録では、使える周波数が包含関係になっている点がポイントです。
増波後の82波を指定して包括登録しておけば、増波前の30波での運用もその範囲に収まります。
新旧の機械が混在している事業所でも、登録を分ける必要はありません。
だからこそ総務省は「増波後の全てのチャネルでの登録」を勧めています。広いほうで登録しておけば、あとから82ch対応機を買い足しても登録し直す手間が減ります。
そもそも82chが必要な人は限られる
冷静に考えたいのは、82chという数が自分に要るのかどうかです。
増波の目的は、電波が混雑して使いにくかった場所や時間の改善にあります。
裏を返せば、混信で困っていないなら急いで買い替える理由は薄いということです。



都市部の大規模イベントか、上空利用をしたいか。判断はそのあたりだね。
増波後に必要な申請と費用
手続き面も押さえておきましょう。
費用は思ったほど高くありません。
新規登録または変更登録の申請が要る
増波したチャンネルを使うには、手続きが必要です。
新規の免許または登録か、既存局の変更許可・変更登録などの申請が求められます。
包括登録の場合は、増波後の全チャンネルで登録しておくのが総務省の推奨です。
電波利用料は個別登録200円・包括登録290円
維持費として毎年かかるのが電波利用料です。
簡易無線局の電波利用料は、個別登録が1局あたり年間200円、包括登録が1局あたり年間290円とされています。
いずれも令和7年10月1日に改定された額です。
「年額400円」と書かれた情報を見かけますが、現在の額とは異なります。開設届を出すと、開設した月の翌月末に納付書が郵送されてきます。
登録事項証明書の交付請求手数料
申請時には、登録事項証明書の交付請求手数料もかかります。
書面申請なら480円分の収入印紙、電子申請なら440円です。
常置場所のみの変更であれば、証明書の発行が不要なため手数料もかかりません。
申請のやり方は別記事で解説している
実際の書類の書き方や提出の流れは、手順が細かく分かれます。
登録の具体的な進め方はデジタル簡易無線の登録のやり方をまとめた記事で解説しました。
これから登録する方は、そちらを併せて読んでみてください。


82ch対応機に買い替えるならどれを選ぶか
混信に悩んでいて、82chが必要だと判断した場合の話をします。
形態別に整理します。
ハンディ機の現行ラインナップ
持ち歩いて使うなら、増波に対応したハンディ機から選ぶことになります。
| 機種 | 形態 | メモ |
| IC-DPR45 | ハンディ | アイコムの増波対応モデル |
|---|---|---|
| DJ-DPS70E | ハンディ | アルインコ。型番末尾のEが増波対応の目印 |
| SR740 | ハンディ | 八重洲無線 |
| TPZ-D563BTE | ハンディ | JVCケンウッド。Bluetooth対応 |
| IC-DPR100 PLUS | 車載・固定 | アイコム |
| DR-DPM61E | 車載 | アルインコ |
アルインコ機は型番の末尾に「E」が付いたものが増波対応です。
上空用の15chは、受信のみに対応する機種が多い点に注意してください。各社の携帯型・車載型は「陸上82波+上空15波の受信」という構成が主流です。上空で送信する運用を考えている場合は、機種ごとの仕様を必ず確認してください。
\ 82ch対応の現行モデルを見る /
車載機を選ぶ場合
車に積んで使うなら、出力と設置性で車載機が有利です。
増波対応の車載機としては、IC-DPR100 PLUS と DR-DPM61E が挙げられます。
常置場所の扱いが変わるため、登録内容の確認を忘れないようにしてください。
中古の30ch機を買うのは避ける
中古市場では、旧世代の機械が安く出回っています。
しかし、これから買い足すなら増波対応機を選ぶべきでしょう。
後から82ch化できない以上、安さだけで選ぶと同じ悩みを抱えることになります。
生産を終えた機種にも注意してください。IC-DPR4・IC-DPR3・TPZ-D553 などは現行品ではないため、これから選ぶ対象にはなりません。
機種選びの詳細は別記事にまとめている
出力や電池のもち、防水性能まで比べると、選び方はもう少し細かくなります。
機種ごとの違いはデジタル簡易無線のおすすめ機種を解説した記事で詳しく整理しました。
用途が決まっている方は、そちらで絞り込んでみてください。


買い替えるべき人・買い替えなくていい人
ここまでの内容を、判断しやすい形に整理します。
自分がどちらに当てはまるか確認してみてください。
買い替えたほうがいい人
混信が実害になっている環境では、増波の恩恵がそのまま効きます。
- 都市部や大規模イベントで、空きチャンネルを探すのに苦労している
- 他団体と現場が重なり、混信で連絡が途切れたことがある
- ドローンなど、上空利用のチャンネルを使いたい
- これから新規に台数をそろえる予定がある
上空利用が5chから15chへ増えた点は、ドローン運用では特に大きい変化です。
30ch機のままで問題ない人
一方で、急ぐ必要のない使い方も多くあります。
- 使う場所が限られており、混信で困った経験がない
- 仲間内の少人数運用で、使うチャンネルが固定されている
- 登山やレジャーなど、ほかの利用者が少ない場所が主戦場
- 台数が多く、全台入れ替えの負担が大きい
台数が多い場合は、必要な現場から順に82ch機を足していく形でも構いません。
デジタル簡易無線の増波に関するよくある質問
検索でよく見かける疑問に、一次情報をもとに答えます。
30ch機を自分で改造して82ch化できますか?
できません。周波数の変更は重要な定格の変更にあたり、もとの技適が通用しなくなります。登録のない状態で運用すれば電波法第110条の対象となり、一年以下の拘禁刑または百万円以下の罰金が定められています。
メーカーは改修サービスをしてくれますか?
アルインコは公式に「そのような対応は致しておりません」と告知しています。ほかのメーカーでも、30chタイプを82chタイプへ改修するサービスは確認されていません。
30ch機はもう使えなくなりますか?
使えます。総務省も増波前の機種は開設可能だと明記しています。増波後の82波で包括登録しておけば、30波での運用もその範囲に収まります。
増波後に何か申請は必要ですか?
必要です。新規の免許または登録か、既存局の変更許可・変更登録などの申請が求められます。包括登録の場合は、増波後の全チャンネルでの登録が推奨されています。
電波利用料はいくらかかりますか?
簡易無線局の場合、個別登録は1局あたり年間200円、包括登録は1局あたり年間290円です。いずれも令和7年10月1日に改定された額になります。
免許局も増波されましたか?
されました。460MHz帯の免許局は地上専用が65chから75chへ増え、中継利用の20ch(10ペア)が新設されています。登録局と免許局を合わせると100chから192chになりました。
増波後の周波数はどこからどこまでですか?
増波後の登録局の周波数は351.03125MHzから351.63125MHzまでです。移動範囲は地上・中継利用が全国の陸上および日本周辺海域、上空利用はそれらの上空までとなっています。
まとめ:技術ではなく認証の壁だった
デジタル簡易無線の増波と改造について、答えは出ています。
- メーカーは30ch機の82ch化に対応していない
- 止めているのは技術ではなく、技適を取り直すコストという認証の壁
- 自分で改造すれば電波法第110条の対象になる
- 30ch機は捨てなくていい。包括登録の範囲で使い続けられる
- 混信で困っていないなら急いで買い替える必要はない
技術的にはソフトの改修で届くはずなのに、認証の手続きがそれを押し戻している構図でした。
メーカーが意地悪をしているわけではない、というのが調べたうえでの私の結論です。
混信に悩まされているなら、必要な現場から82ch対応機を足していくのが現実的でしょう。



全部いっぺんに替えなくていい。困っている現場から順番にね。
\ 混信に困っている方はこちら /






