技術基準適合証明が登場してしばらくは、格安だった市民無線の技術基準適合証明試験は、今ではかなり高価になっており、逆にアマチュア無線機の申請の方が安かったりする状況。
それでも、有志の方々が個人的に受けたり、希望者を募ってワリカンで受けたりと、技適を取る人が増えていたみたい。
ご承知の通り、平成34年には旧規格で技適を取った物は使えなくなるため、何らかの対策を取らねばなりません。
- (問題のない物は)そのまま再度検査を受け直す
- 対策を施したうえで再度検査を受け直す
- 新規格で技適を取った物に買い替える…の3択
バンド防衛のためにと、CBer有志が技適を取ったり、新たなメーカーが登場し、市民ラジオを生産するなど一時は危ぶまれた27MHzを巡る状況は好転。
そして、このままスムーズに新規格に移行されるものと思われていましたが、コロナ禍での経済状況を垣間見て、当分の間延長となった訳で、このような展開は誰が予想していたでしょうか…。
経済状況云々とは言え、前々から分かっていたことなので、「散々煽っておいてこれじゃね…」と肩透かしを食らった感が強いのは事実です。
これからもCBer有志が技適を取るのにチャレンジする人がいるかも知れないので、資料として現在の技適検査方法などを書き記しますね。
型式検定時代の市民ラジオの一部はそのままではアウト!
市民ラジオのルーツは、デジ簡同様、免許が必要な簡易無線でした。
今はなき「ラジオの製作(ラ製)」という雑誌で市民無線を盛り立てたので一大ブームとなったのは言うまでもありません。
その頃の簡易無線というのは、今の技適に近い型式(かたしき)検定という物があり、それをパスすることで、無線機を使うために必要な無線従事者免許がなくても、簡単に免許(状)が得られるようになっていました。
しかし、その頃の市民ラジオの一部は、受信回路がシングルスーパーヘテロダインだったりして、感度を上げるためか発振器の出力が大きめになっています。
型式検定の測り方では、パスできたものの、新技適の測定方法だと、一発アウトとなるのが結構あるようですよ。
残念ながら、そういった物は何らかの対策を施さないと、技適を取ることができず、使うことができません。
今の所は、経過措置のおかげで昭和58年1月1日以降の有効期限のある免許(状)を持っていれば、そのまま型式検定の物でも法規上は使っていいことにはなっています。
上記第四条第一項第二号というのは、市民ラジオのことです。
この頃、CBerの間では免許制度がなくなると大騒ぎしていたっけ。
昔は「免許=技術基準適合証明シール」という解釈をされていたのですが、最近、総合通信局に問い合わせたCBerがいて、免許状は法律上失効しているので無効となり、トランシーバー自体は無線局免許状がなくても使ってよいという意味なのだとか。
昔使っていたトランシーバーがまだ使えるなんて、喜ばしいことではありませんか。
型式検定時代の市民ラジオであっても、法規上そのまま使用できるものの、現行法においてはあまり好ましいものではないと言えますね。
型式検定時代の市民ラジオでも技適に合格できたというサンプルとして、東芝がかつて発売していたトランシーバーであるZS-7260Aというハンディ機で私が技適を取った際の証明書を上げておきますね。
テレコムエンジニアリングセンター(TELEC)が無線設備検査検定協会(MKK)と言っていた時代のことでした。
型式検定の市民ラジオはNGになりやすい
前のアーティクルにて型式検定の市民ラジオの一部はそのままではアウト!と書いたのですが、実際にはどのようになっているのでしょうか。
テレコムエンジニアリングセンターの前進である無線設備検査検定協会(東京)では、型式検定の市民ラジオに関し、受け入れ試験というのを行った上で、技術基準適合証明試験を続行するかどうか決めていました。
実は、私も何台か不合格をいただいており、たまたま記念にとデータのコピーをいただくことができたのです。
それを元に現在のスペックと照らし合わせ、どんなデータが悪いのかというのを見てみたいと思います。
市民ラジオの現在の検査スペック
検査項目 | スペック |
周波数の許容偏差 | ±50PPM(大体±1kHz少々) |
占有周波数帯幅(OBW) | (上/下側帯波)夫々25dB以上 |
帯域外領域におけるスプリアス発射の強度 | 1mW(0dBm)以下 |
スプリアス領域における不要発射の強度 | 50uW(-13dBm)以下 |
副次的に発射する電波の強度 | 4nW(約-54dBm)以下 |
空中線電力 | 許容偏差:+20%/-50% | 指定値0.5W以下
帯域外領域におけるスプリアス発射の強度を見てみると、1mW以下と結構出ていてもセーフということで、意外と甘かったりして…。
受け入れ試験結果と現行スペックを照らし合わせる
では、不合格になったトランシーバーのデータを見てみましょう。
データにあるRP7700というのは、三洋電機がまだありし頃、エネループだけではなく、テレビやラジオなど色々な家電を発売していた時にBCLラジオ+トランシーバー(ラシーバー)という触れ込みで売られていた画期的な製品です。
秋葉原を散策していた時、偶然見つけたもので、子機のトランシーバーもちゃんと付いているという昭和レトロと言える商品です。
そんな、レトロ感あふれる本機をそのまま測っていただいたら、残念ながら、門前払いとなってしまいました。
単なるBCLラジオと化しているのが、実にもったいない…。
周波数の許容偏差
まず、周波数の許容偏差は-11.44PPMと古い機械にしてはバッチリな値。
スプリアス
次は、スプリアスで、このデータを測った頃は帯域外領域/スプリアス領域なんていう概念がありませんでした。
確かこの頃のスペックは、1mW以下というスペックだったはずなので、余裕でパス。
でも、今じゃ100%アウトだよね。これ。
スペアナの分解能のため、近接周波数で測定する帯域外領域における不要発射の強度は、上のグラフから読み取ることはできないので、何とも言えません。
今回のものは、13.7MHz/40.8MHzという周波数のスプリアスが出ているので、近接にも何かしらスプリアスが出ていそうな悪寒…いや予感はします。
Occupied Band Width
次は、Occupied Band Widthを見てみましょう。
Occupied Band Widthとは、略してOBWというもので、日本語で占有周波数帯幅を指します。
通常であれば、何kHzとかいう測定値になるのだけれど、市民ラジオに関しては検査方法が異なるため、測定値は(dB)で表されています。
なぜ市民ラジオだけdBで評価するのか、検証してみましたので、当記事の後半をご参照ください。
副次的に発射する電波の強度
最後に、副次的に発射する電波の強度(不要輻射)ですが、これは受信状態にして、アンテナ端子からどのくらいの不要電波が出ているかを見ているものです。
残念ながら、ラシーバーの親機・子機共にコイツのせいで不合格になってしまいました。
一番強力なものは、26MHz帯で2442316μμW(pW)=2.4μW(約-26dBm)も出ているのです。
昔はコストを下げつつ、シングルスーパー受信機で感度を稼ぐために、局部発振器の出力を頑張ったのでしょう。
次に大きい不要輻射は、局発26MHz帯の2倍、3倍。
昔は電波法に関して、大らかだったに違いありません。
空中線電力
ちなみに、空中線電力は、本試験でないと測ってもらえないので、データはないのですが、スプリアスのデータから推測すると次のように推測できます。
●空中線電力を50mW(=50000uW)と仮定する。153.32uWで切りがよく26.0dBとなっているのでそれを参照し、比率を出してみる。
10*LOG(153.32/50000)≒約25(dB)
●次に空中線電力を60mW(=60000uW)と仮定すると、
10*LOG(153.32/60000)≒約26(dB) うん。数値としては丁度いい塩梅!
60mWならば、丁度上限20%となり、OKかNGの狭間にあると言えるが、もう少し低いかも知れない。
測定項目は、意外とスペックがゆるゆるだったり、厳しかったりする箇所があるので、市民ラジオを自作する方は、気合を入れて製作してくださいね。
今の時代、スーパーヘテロダイン式のものでは新技適はパスできません。
実際に測定してみるぞ!
前のアーティクルでNGになってしまったデータを元にどのようになってしまうとダメなのかというのを紹介しました。
ここでは、電波利用ホームページにて配布されている難しそうな測定の話をしてみます。
実際の測定方法は、下記、電波利用ホームページにあるのだけれど、全く測定器を使ったことのない人にとっては意味不明な言葉が羅列しており、閉口してしまうに違いありません。
多少知識がある人用向けに書いているので、理解できない所もあるかも知れませんが、その辺は、ご容赦ください。
負荷条件は50Ω純抵抗がお勧め!
市民ラジオを測定する際、負荷条件をどうするか決めなければならないのですが、負荷条件には、4つの方法があります。
筐体内部のローディングコイルを取り外した点とアース間に50Ω純抵抗負荷を接続する。
アース点は、ローディングコイルの直近とする。
可変容量(最大約100pF)と直列の可変抵抗(約25Ω~300Ω)による整合負荷を最も短縮したアンテナの先端に接続する。
アースは直接筐体に接続できない場合は金属板を用いて容量的な結合とする。
可変容量(最大約100pF)と直列の固定抵抗(50Ω)による負荷を最も短縮したアンテナの先端に接続する。
アースは直接筐体に接続できない場合は金属板を用いて容量的な結合2とする。可変容量は送信出力最大点に調整される。
固定の容量(20pF)と直列の固定抵抗(50Ω)による負荷を最も短縮したアンテナの先端に接続する。
アースは直接筐体に接続できない場合は金属板を用いて容量的な結合とする。
ここで気づいたのが、「疑似負荷の2」という物。なぜ20pFと50Ωと決まっているのか。
色々文献を探したり、考えたりしたのですが、恐らく、20pFのコンデンサは、トランシーバーにあるローディングコイルと27MHz帯でマッチングさせるためにあるのではないかと。
なぜなら、ローディングコイルが1.7μH前後だと、丁度27MHz帯でマッチングできるです。
マッチングできれば、ローディングコイルの分が帳消しになるので、50Ωの機器がそのまま接続OKという理屈なのでしょう。
共役整合は、現在使用されていないそうですが、テレコムエンジニアリングセンター(東京)で、アンテナ端子のないトランシーバーに使っているのを見たことがあります。
共役整合・疑似的負荷の1/2はマッチング回路を接続することで検査できるようにしたもので、値云々を見る際、換算したりしないといけないので、非常に面倒な測定方法です。
しかも、専用の自動測定器を使えとあります(その専用の自動測定器に関し、多くは語られていない)。
それに比べ、50Ω純抵抗は、テスト用アンテナ端子に直接ケーブルを繋ぐ方法で、至って簡単。何も考えなくていいのです。
現在行われている「50Ω純抵抗」で検査を行うのを前提に話を進めたいと思います。
周波数の偏差
こちらは、周波数カウンターを接続するだけと至って簡単。
それだけに、きちんと校正(較正)のされた周波数カウンターが必要です。
デジタル表示の付いたアマチュア無線機でも一応代用はできなくはないけれど、高安定の発振器があるものでないと厳しいかも知れませんね。
なぜなら、許容差は1kHz少々なので、意外と緩いようで厳しいのです。
古い機械だと、クリスタルの周波数がずれていることもあり、チェックポイントの1つと言えます。
・テスト用オーディオ信号は入れず、無変調で。
・念のため、マイク端子はノイズが入らないようにGNDとショート状態にすること。
※周波数偏差の出し方は、次の通り。PPM=10^(-6)
(測定周波数ー指定周波数)/指定周波数=周波数偏差
指定周波数が27.088MHz(4チャンネル)で測定結果が27.0875MHzの場合。
(27.0875-27.088)/27.088≒-1.85+10^(-5)=-18.5PPM となる。
空中線電力の偏差
こちらも「50Ω純抵抗」だと、パワーメーターを繋ぐだけと簡単です。
きちんと校正(較正)のされたパワーメーターであれば全く問題なく、注意点は、次の通りです。
・パワーメーターのゼロ調整を行っておくこと。
・テスト用オーディオ信号は入れず、無変調で。
・念のため、マイク端子はノイズが入らないようにGNDとショート状態にすること。
占有周波数帯幅
こちらは、スペアナの操作が必要で、しかも市民ラジオの測定で一番手間がかかる所で、肝となるセットアップをする前に、まず注意が必要になります。
50mWであれば17dBm位、100mWは20dBm。500mWは27dBmとなる。
そのため、何も考えず電波を入力すると、内部回路で歪んでしまい、正常に測定できなくなる。
必ず、スペアナのアッテネーターを入れておくこと。
50mWの場合は20dB、100~500mWは30dBのアッテネーターを入れれば充分!
次にセットアップの方法です。
電波利用ホームページの測定方法などは、サラッと書かれているので、簡単にできそうなのだが、実際はそんなに甘くありません。
【セットアップの手順】すでにスペアナにトランシーバーを接続しているのが前提(タップすると見られます)
その際、低周波発振器のレベルが見られるようバルボルなどdB表示で値を直読できるメーター類を並列に繋いでおく。
キャリアのすぐ横(1.25kHz離れた所)に出てくるスペクトラムにデルタマーカーでマーカーを持ってくる。右(上側帯波)でも左(下側帯波)でもOK。
先程デルタマーカーで合わせた所が、-10.5dB位になるよう低周波発振器の出力を上げる。トランシーバーのマイクアンプの直線性がよければ、そのポイントで60%変調出ていることになる。
STEP3の低周波発振器を60%変調になるレベルから、更に10dB(3.14倍)上げる。例えば、10mV(-40dBV)で60%変調となっていれば、31.4mV(-30dBV)に合わせれば10dB上げたことになる。
—セットアップが終われば、今度は測定に入れますが、ちょっとしたコツがいります。
【占有周波数帯幅測定の手順】
セットアップした状態で、電波のキャリアに再度マーカーをセット。何dBmであるか値を読み取る。
トランシーバーによっては、キャリアの両サイド1.25kHz毎にスペクトラムが沢山出てくるはず。左側(下側帯波)に出ているスペクトラムの5番目~10番目が見えるようスペアナの中心周波数を下げる。
スペクトラムの5番目~10番目の中で一番山が高い物が何dBmであるか値を読み取る。
今度は、右側(上側帯波)に出ているスペクトラムの5番目~10番目が見えるようスペアナの中心周波数を上げる。
スペクトラムの5番目~10番目の中で一番山が高い物が何dBmであるか値を読み取る。
※(電波のキャリア)-(スペクトラムの5番目~10番目の中で一番山が高いもの)が25以上になることを確認する。
例 (電波のキャリア)が0dBm、(スペクトラムの5番目~10番目の中で一番山が高いもの)が-30dBmだとすると、0ー(-30)=30dBとなる。
一応、総務省推奨の手順通りにするのであれば、上記の通りになるのだけれど、スペクトラムの5番目~10番目の中明らかに5番目の山が高いのであれば、Spanを6.25kHz(あるいは10kHz)ではなく20~30kHzに幅を広げて、5番目の上下側帯波が見えるようにしてやっても支障はありません。
何故態々スペクトラムの5番目~10番目の中で一番山が高い物を見つけるのかというと、低周波発振器を60%変調になるレベルから、更に10dB上げると、マイクアンプの回路によっては歪んでしまうからなのです。
市民ラジオは、3kHzの周波数の音まではよしとするけれど、それ以上の周波数の音は電波が広がり過ぎるのでよしとしていません。
5番目の山というのは、6.25kHzという本来電波が出てほしくない所なんだ。
市民ラジオの周波数は、一部のチャンネル同士が8kHz接近(26.968MHz、26.976MHz、27.080MHz、27.088MHz及び27.112MHz、27.120MHz)しています。
受信機のセラミックフィルターの特性を考慮すれば、丁度6.25kHzの音はフィルターによってカットされてしまう所のようなので、特性が25dB以上取れていれば、8kHz接近している周波数同士でも混信しにくくなるという考えからではないかと推測しています。
この測定に関しては、別の記事にて紹介していますので、参考にしてくださいね!
副次的に発する電波等の限度
疑似負荷などマッチング回路を使った測定方法だと、正確にレベルが読み取れないので、空中線電力の値から、キャリアとスプリアスの差から割り出すのだとか。
こちらも「50Ω純抵抗」で検査する方が、値を直読できるので簡単です。
・測定中は受信状態にし、電波を止めること。
スプリアスを監視して、スペクトルの山が高い方の値を読み取る。4nW(約-54dBm)より値が小さければOKだが、それより高い場合は残念ながらNGとなる。
スプリアス領域における不要発射の強度
スプリアスですが、前のアーティクルに書いたのだけれど、昔と違い、スペックが厳しくなっています。
以前は1mW(0dBm)出ていてもOKだったものが、50uW(約-13dBm)まで落ちていないと失格!
以前、そのままでも技適合格できていたものが、全く通らないケースが出てきており、ローパスフィルターを付けるなどの対策が必要となっているので、有志もその辺苦慮しているようです。
さて、スプリアスを測る際、まずスプリアスの探索を行う必要があります。
スプリアス領域における不要発射 スペアナの設定(タップすると見られます)
次は、スプリアスのレベルを測ります。
以上が総務省推奨の測定方法だったけれど、スプリアスを探索してから、細かくレベルを読み取るなどかなり面倒。
フルスパンにして、メインキャリアとスプリアスの差を見ても差しさわりはありません。
スプリアスの目安としては、次の通りです。
・空中線電力50mWの場合は、差が30dB以上。(Y軸目盛3マス)
・空中線電力100mWの場合は、差が33dB以上。(Y軸目盛3マス少々)
・空中線電力500mWの場合は、差が40dB以上(Y軸目盛4マス)
それ以外の空中線電力の場合は適宜計算するように。
帯域外領域におけるスプリアス発射の強度
帯域外領域とは、占有周波数帯幅6kHzの2.5倍である上下15kHzの幅を指します。
この中に変なスプリアスがいないか確認するのですが、まずはスプリアスの探索から始めることになります。
帯域外領域におけるスプリアス スペアナの設定(タップすると見られます)
次は、スプリアスのレベルを測ります。
めんどいねぇ。この測定って。
以上の設定ができたら、一度単掃引させてからマーカーを波形のピークへ持っていき、レベル値を読み取る。0dBm(絶対値)よりも値が低ければOK!
面倒なので、スプリアスの探索の状態で、メインキャリアとスプリアスの差を見ても差しさわりはありません。
帯域外領域におけるスプリアスの目安としては、次の通りになります。
・空中線電力50mWの場合は、差が17dB以上。(Y軸目盛2マス近く)
・空中線電力100mWの場合は、差が20dB以上。(Y軸目盛2マス)
・空中線電力500mWの場合は、差が27dB以上(Y軸目盛3マス近く)
それ以外の空中線電力の場合は適宜計算するように。
50mWであれば2マス以上、500mW3マス以上スプリアスが離れていれば問題ないと言えます。
【そのままでも、変調解析やOBWが測れ、安いTGオプションを付ければRFアンプの調整も可能!】市民ラジオ無線機の占有周波数帯幅測定は特殊
最近のアーティクルで市民ラジオの技適試験の内容を紹介したのですが、改めて測定方法を見ると、かなり違和感を感じざるを得ません。
唯一A3Eが許可されているアマチュア無線、海上用DSBの占有周波数帯幅測定の方法と比較してみましょう。
アマチュア無線(A3E) | 海上用DSB | 市民ラジオ | |
試験用入力条件 | 1kHz 60% | 1kHz 60%の入力レベルから10dBアップ | 1.25kHz 60%の入力レベルから10dBアップ |
測り方 | 「上限周波数」と「下限周波数」の差(kHz)として算出 | 「上限周波数」と「下限周波数」の差(kHz)として算出 | 搬送波振幅に対する上、下側帯波の最大振幅の電力比(dB) |
スペック | 6kHz以下 | 6kHz以下 | 25dB以上 |
上の表の通り、アマチュア無線は、1kHz 60%変調にしてスペアナのOBWモードで測定。
海上用DSBは1kHz 60%の入力レベルから10dBアップして、スペアナのOBWモードで測定。
一方、市民ラジオは、1.25kHz 60%の入力レベルから10dBアップして、搬送波(無変調の状態)と上、下側帯波の5~10番目の内レベルが高いものとの電力比を求めて算出するという面倒な方法を取っています。
一体どういうことなんだ?
SSG(標準信号発生器)を使って、検証してみましょう。
市民ラジオの占有周波数帯幅測定法を検証
下の左の画像は、SSG(標準信号発生器)を使って1.25kHzを60%変調を掛けたものをAM検波できるスペアナで観測したものです。
右は、試験法の通り、1.25kHzの音声信号を60%変調となる値から、さらに10dBアップしたもの。
60%変調からオーディオ信号を10dBアップすると、130%変調というかなり深い変調が掛かっているようです。
その場合、占有周波数帯幅はどうなるのでしょうか。
全電力の99%となる幅は、3番目の山(3.75kHz)も大きくなるため、上記のように約7.5kHzとなります。
そうなると、占有周波数帯幅6kHzとならなくなります。
今度は、アマチュア無線にならって、変調周波数を1kHzにし、100%変調を掛けてみたのが左側の画像で、130%変調を掛けたのが右の画像になります。
今度は、130%変調を掛けても、スペックである6kHz以下に収まります。
変調周波数を1kHzにすれば、市民ラジオでも占有周波数帯幅が6kHz以下に収まるはずです。
しかし、正規の検査法では、何故か変調周波数を1.25kHzにして、態々占有周波数帯幅が広がるようにして測定させています。
【そのままでも、変調解析やOBWが測れ、安いTGオプションを付ければRFアンプの調整も可能!】市民ラジオの始めの規格ができたのは、ARIB(電波産業会)がRCR(電波システム開発センター)だった頃でした。
その頃の市民ラジオのメーカーであるソニー・松下が規格を決めるワーキンググループに入っていたはずなので、意味もなく、市民ラジオだけ変調周波数を1.25kHzにしているとは思えないのです。
市民ラジオの周波数は、一部のチャンネル同士が8kHz接近(26.968MHz、26.976MHz、27.080MHz、27.088MHz及び27.112MHz、27.120MHz)しているのは、ご承知のことでしょう。
受信機のセラミックフィルターの特性を考慮すれば、丁度6.25kHzの音はフィルターによってカットされてしまう所のようなので、特性が25dB以上取れていれば、8kHz接近している周波数同士でも混信しにくくなるという考えからではないでしょうか。
RJ-410の測定結果はいかに…
では、Panasonic RJ-410を実測してみましたので、ご紹介します。
まずは、簡単に測れる周波数。
出だしは好調!
次は、占有周波数帯幅を測るとします。
RJ-410には、マイクゲイン切り替えがあるので、念のため両方測ってみました。
上はマイクゲイン「遠」にした状態。
今度はマイクゲイン「近」にした状態。
マイクゲイン「近」よりは、マイクゲイン「遠」にした時、よくなる傾向。
ゲインを変えると、マイクアンプ回路の歪み方が変わるせいなのかも知れません。
実験では、「遠」の時は約-53dBV、「近」の時は約-40dBVの入力で60%変調となるので、13dB位のゲイン差があることが分かりました。
60%変調の入力レベル+10dBupの状態で、変調度を測定した所、115%でした(「遠」「近」共)。
以上より、電波が広がらないようキッチリと設計されているのではないかと推測されます。
本当は他にも測定項目があるのだけれど、疑似負荷の方法では、空中線電力に疑義が生じ、本来500mW前後出ている物と思われるものが、160mWという結果になってしまいました。
これでは、技適はNGではないか!?
そのため、空中線電力から測定値を割り出す副次的に発射する電波の強度やスプリアスの測定値に信憑性がなくなってしまいました。
測定条件を示す記述を参考に工夫してみたが、全く改善されず、当然ロスはあるのだろうけれど、どうも腑に落ちない結果となってしまいました。
余程の設計不良でない限りは、実は旧規定で技適を取った物でも全く問題はない事例が多く、旧規定で技適を取った市民ラジオでも全く問題はないよね…というのがこちらのシナリオでした。
しかし、今回は、疑似負荷を使った測定環境を整えることができず、空中線電力と副次的に発射する電波の強度、スプリアスに関しては、正確に測ることができなかったのが残念な所です。
流石に分解してしまうと、事実上使用できなくなってしまうので、今回はここで終了です。
旧無線機が使えなくなるようであれば、その時は新技適を取るべく、分解して測定しようかと思います。
【そのままでも、変調解析やOBWが測れ、安いTGオプションを付ければRFアンプの調整も可能!】CB無線機製造に関して
2023年4月時点での市民ラジオメーカーの技適・工事設計認証状況をまとめたのが、下記の表です。
今回は、プライバシーの関係もあり、個人で技適を取った人は除外しています。
【技術基準適合証明】
メーカー名 | 機種名 | 技適取得総数 |
株式会社サイエンテックス | JCBT-17A | 7 |
株式会社サイエンテックス | SR-01 PROTOTYPE-A | 6 |
ポラリスプレシジョン合同会社 | BLACKBIRD-EXP1 | 2 |
株式会社西無線研究所 | NTS111 | 258 |
株式会社西無線研究所 | NTS111A | 121 |
株式会社西無線研究所 | NTS111B | 151 |
株式会社西無線研究所 | NTS111T | 1 |
株式会社西無線研究所 | NTS115 | 407 |
【工事設計認証】
メーカー名 | 機種名 |
株式会社サイエンテックス | JCBT-17A |
株式会社サイエンテックス | SR-01 Rev.A |
ポラリスプレシジョン合同会社 | BLACKBIRD |
西無線研究所のNTS115に関しては、申請件数が数十台~百台近くとバラバラではあったけれど、407台と大健闘しているようです。
サイエンテックス・ポラリスは、量産に移る際、工事設計認証を取得しているため、生産台数は不明ですが、それなりに生産しているのではないかと思われます。
CB無線機の修理について
メーカー以外が修理できるものもある
メーカーでない第三者が携帯電話端末を修理することによって、修理後の携帯電話端末(特別特定無線設備)の性能が電波法で規定している技術基準に適合するかどうか不明確になる等の点が懸念されていました。
そのようなことから、平成27年に修理の箇所及び修理の方法が適正で修理後の無線設備が技術基準に適合していることを第三者である修理業者自らが確認できるなど電波法で定める登録の基準に適合する場合には、総務大臣の登録を受けることを可能とする「登録修理業者制度」というものができました。
しかし、残念なことに「特別特定無線設備」しか修理できないようになっています。
この「特別特定無線設備」というのは、「特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則」という法律の第二条第二項に明記されているものです。
※ここでいう法とは、電波法である。前項というのは、特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則を指す。
どの無線が当てはまるのかと言いますと…。
- デジタルコードレス電話
- 携帯電話端末
- PHS(及び無線LAN内蔵のもの)
- 陸上移動局
- 小電力データ通信システム
- 超狭帯域無線システム
- 5.2GHz高出力データ通信システム
- 特定小電力無線の一部(920MHz・57GHzを使用するもの)
CB無線や特定小電力無線の無線電話は、残念ながら、「特別特定無線設備」に当てはまらないので、メーカー以外の者が修理をすれば法的にアウトということになるのです。
無論、修理後に修理した者が技術基準適合証明を取れば、その限りではありませんが、そこまでする価値があるかは、無線機の所有者次第だと思います。
ちなみに、登録修理業者が修理できる箇所は、下記の法律によって定められています。
電波の質に影響のないものであれば、登録修理業者であれば交換OKということなのです。
電波の質が変わらない箇所であれば、登録者の修理を許可するということで、この法律、どちらかというと街中のスマホ修理屋を救済するような格好となっているようですね。
まとめ
キチンと測定内容を理解し、適切な測定器を用いれば、誰でも市民ラジオの測定をすることが可能です。
正しく測定できれば、実際に制作した無線機を評価できるようになるものです。
個人で技術基準適合証明を取るには、あまりにも費用が掛かりすぎますが、機会があれば、いずれチャレンジされてはいかがでしょうか。