ホンダのハイブリッドシステム「i-DCD」は、エンジンとモーターを組み合わせた独自の技術で、高い燃費性能と力強い走行を実現しています。
しかし、特定の走行条件下でトラブルが報告されることもあり、特に坂道での渋滞時にクラッチやトランスミッションの高温異常が発生しやすいとされています。
本記事では、i-DCD搭載車のトラブル事例を詳しく解説し、未然に回避するための運転方法のポイントをお伝えします。
i-DCDシステムの概要
ホンダの独自ハイブリッド技術i-DCD
i-DCDはエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムで、7速デュアルクラッチトランスミッション(DCT)を特徴としています。
i-DCD搭載車には、次のようなメリットがあるんですよ。
- 燃費性能の向上
- 力強い加速感
- スポーティーな走行フィール
- EV走行の拡大
- 高効率な動力伝達
- 軽量・コンパクト設計
- 環境性能の向上
- 多様な走行モード
- 車好き向けのシステム
燃費性能の向上
従来のIMAシステムと比べて、JC08モード燃費が大幅に向上しています。
例えば、フィットハイブリッドでは21.6km/Lから26.6km/L~27.2km/Lに改善されました。
力強い加速感
DCTの採用により、エンジンとモーターの力を効率よく伝達し、ダイレクトな加速感を実現しています。
それは乾式クラッチが冷却オイルを間に挟まない分、動力がそのまま伝わるのでパワーロスが湿式に比べ少ないんだ。
レース車両などでは、パワーロスを嫌って乾式クラッチが使われていることがあります。
スポーティーな走行フィール
DCTによるシフトチェンジの素早さと、エンジン音の特性により、スポーティーな走りを楽しめます。
EV走行の拡大
モーターのみでの走行範囲が拡大され、低速域から60km/h程度までのEV走行が可能になりました。
高効率な動力伝達
DCTの採用により、CVTと比べて動力伝達効率が高くなっています。
軽量・コンパクト設計
システム全体が軽量・コンパクトに設計されており、車両の軽量化に貢献しています。
環境性能の向上
重希土類を使用しない新型モーターの採用により、環境負荷の低減を実現しています。
多様な走行モード
EVドライブモード、ハイブリッドドライブモード、エンジンドライブモードなど、状況に応じた最適な走行モードを選択できます。
車好き向けのシステム
従来のハイブリッド車にはない、より運転を楽しめるシステムとして設計されています。
これらのメリットにより、i-DCD搭載車は燃費性能と走行性能のバランスを取りつつ、運転の楽しさも提供しています。
これを見る限りは、いかにも理想的なシステムと言えそうなのですが…。
i-DCDトラブルの原因
i-DCDは、ホンダが開発した1モーターハイブリッドシステムで、7速デュアルクラッチトランスミッション(DCT)を採用。
このシステムは、燃費性能と加速性能の向上を目指して開発されました。
しかし、以下のような問題点が指摘されています。
高温問題による停止
渋滞や坂道の走行で半クラッチ状態が続き、トランスミッションが高温になると停止。
クラッチの温度上昇により警告灯が点灯する場合があります。
日光いろは坂で動かなくなってしまったホンダ車は、このパターンであると言われています。
半クラッチ状態になると、どうなっちゃうの?
クラッチの過熱リスク
渋滞時や坂道での低速走行時に、半クラッチ状態となり、クラッチが過熱しやすい傾向があります。
熱を風で冷やす乾式クラッチであるために、高温になると破損する可能性があるからです。
突然の停止
クラッチが高温になると、安全機能が作動して車両が停止することがあります。
発進時の遅れ
アクセルを踏んでも一瞬車が進まないことがあります。
考えられる事故のリスク
i-DCDシステムに直接起因する重大事故の報告は見つかりませんでしたが、以下のような状況で事故のリスクが高まる可能性があります。
- 渋滞時の突然の停止
- 発進の遅れによる事故
- 山岳路での立ち往生
渋滞時の突然の停止
高速道路や坂道での渋滞時に車両が突然停止すると、後続車との接触事故のリスクが高まります。
発進の遅れによる事故
交差点などでの発進時に車両の動きが遅れると、他の車両との接触リスクが生じる可能性があります。
山岳路での立ち往生
いろは坂などの山岳路で複数のi-DCD搭載車が立ち往生する事例が度々報告されており、交通障害や事故を引き起こす可能性があります。
i-DCD車に対するホンダの対応
ホンダとしては、i-DCD車に対し、以下のような対応を行っています。
- ユーザーへの注意喚起
- システムの改良
- リコール
ユーザーへの注意喚起
i-DCDシステムの特性や適切な運転方法について、ユーザーに情報提供を行っています。
ホンダはi-DCD搭載車に関して、以下のような注意喚起を行っています。
- 長時間の渋滞や低速走行に関する注意
- 適切な運転方法の推奨
- 警告表示への対応
- スポーツモードの使用
- パーキングブレーキの使用
- 定期的なメンテナンス
長時間の渋滞や低速走行に関する注意
特に坂道で時速4km前後でのノロノロ走行が続く場合は注意が必要です。
このような状況では、トランスミッションの温度が上昇しやすくなります。
適切な運転方法の推奨
渋滞時などは、ブレーキを確実に踏んで発進・停止することを推奨しています。
停止の原因となる半クラッチ状態での長時間の走行を避けるよう呼びかけています。
- 乗り方の問題も指摘されているが、通常のAT車と同じように扱えるかどうかが議論の的。
- 一般ユーザーにも扱いやすいシステムが求められていたが、販売時の説明不足が批判を招いたともいわれている。
警告表示への対応
メーター内に「トランスミッション高温」または「トランスミッション高温:安全な場所に車両を停車して下さい」という表示が出た場合は、安全な場所に停車し、アイドリング状態でトランスミッションを冷却するよう指示しています。
下記のホンダのサイトにあるFAQもご覧ください。
スポーツモードの使用
一部のモデルでは、渋滞時にスポーツモード(SモードやSPORTモード)を使用することを推奨しています。
これにより、トラブルの起こりやすい1速ギアの使用を避け、クラッチへの負担を軽減できる可能性があります。
パーキングブレーキの使用
坂道での停車時には、パーキングブレーキを使用するよう注意喚起しています。
クラッチに負担を掛けないようにするためなんだ。
止まる時はしっかりとブレーキを使おう!
定期的なメンテナンス
乾式クラッチの点検やトランスミッションフルードの定期的な交換など、適切なメンテナンスの重要性を強調しています。
システムの改良
新しいe:HEVシステムの開発など、問題点の改善に取り組んでいます。
e:HEVシステムは、どのような特徴があるのでしょうか?
- 新しいハイブリッドシステム「e:HEV」は低速ではモーター駆動、高速ではエンジン駆動を行う。
- 駆動系統がi-DCDとは異なるので、問題になっていた低速でのクラッチ焼き付きを回避できる。
低速で半クラッチ状態になるのを嫌って、完全にモーターアシストにしたんだね。
i-DCD搭載車に関するリコール
過去にi-DCDシステムに関連するリコールが実施されており、具体的な原因は、主に以下のようなものがありました。
- 7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)の制御プログラムの不具合
- 走行モーターの制御プログラムの不適切さ
- クラッチの過熱
- バッテリー残量の問題
- 乾式クラッチの採用
7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)の制御プログラムの不具合
1速ギアがかみ合わないため、発進に時間を要する、または発進できなくなる恐れがある
走行モーターの制御プログラムの不適切さ
- 時速10km以下での極低速走行時にアクセルを踏むと、一瞬だけ時速1km程度急増速する。
- EV走行モードからエンジン始動時に、モーターから過大な駆動力が発生し、車速が一瞬増加する恐れがある。
クラッチの過熱
渋滞時や坂道での低速走行が続くと、クラッチが過熱し、安全機能が働いて車両が停止する
バッテリー残量の問題
登り坂で何度も発進を繰り返すと、走行用電池の残量が無くなり、パワー不足に陥る。
乾式クラッチの採用
湿式クラッチに比べて熱に弱く、渋滞時や低速走行で過熱しやすい。
これらの問題により、i-DCD搭載車は複数回のリコールの対象となり、特に、7速DCTの制御プログラムに関しては3回連続でリコールが行われ、システムの根本的な問題が指摘されています。
これらの問題は、日本の道路事情(渋滞の多さ、山岳路の存在)と相まって顕在化したと考えられています。
i-DCDシステムの問題点は認識されていますが、適切な運転方法を守ることで多くのリスクを回避できると考えられまが、山岳路や長時間の渋滞が予想される場合は注意が必要です。
日本でDCTの故障が多い車種の共通点は何か
日本でDCTの故障が多い車種
日本でDCTの故障が多い車種は、次の通りです。
- フィット ハイブリッド (3代目)
- ヴェゼル ハイブリッド (初代)
- グレイス DAA-GM4/DAA-GM5型
- ジェイド DAA-FR4型
- フリード ハイブリッド (2代目)
- シャトル ハイブリッド…など
これらの車種には、以下のような共通点があります。
乾式クラッチを採用したDCT
湿式に比べて熱に弱く、渋滞時や低速走行で過熱しやすい傾向があります。
コンパクトカーやサブコンパクトSUVである
小型車向けに設計されたDCTは、システムの小型化・軽量化のために無理な設計になっている可能性があります。
ハイブリッドシステムとの組み合わせ
エンジン、モーター、DCTを組み合わせた複雑なシステムのため、制御が難しく不具合が起きやすい可能性があります。
比較的新しい技術の採用
DCTの開発歴が短く、十分な実績や改良が積み重ねられていなかった可能性があります。
日本の交通事情への対応不足
渋滞の多い日本の道路事情に対して、システムの耐久性や冷却性能が十分ではなかった可能性があります。
不運にも、これらの要因が偶然重なり、特定の車種でDCTの不具合が目立つことになったのね。
ホンダは問題を認識して、その後に登場したe:HEVシステムでこれらの課題を解消したんだ。
ホンダでは、その後レジェンド(5代目)、NSX(2代目)にもi-DCDを搭載するものの、それを最後にi-DCDから手を引いています。
他メーカーでは、日産がスカイラインGT-R(R35)、三菱がランサーエボリューションX・ギャランフォルティスラリーアートでDCTを搭載していましたが、コスト云々という問題もあってか、あまり流行らなかったようです。
ホンダ以外のDCT搭載車は?
ホンダ以外のDCTを搭載している主な輸入車ブランドと車種は以下の通りです。
DCTを搭載している主な輸入車ブランドと車種(タップするとご覧になれます)
- フォルクスワーゲン
- ゴルフ
- ポロ
- パサート
- ティグアン…など
- アウディ
- A1
- A3
- A4
- Q3
- TT
- BMW
- 1シリーズ
- 2シリーズ
- X1
- X2
- メルセデス・ベンツ
- Aクラス
- Bクラス
- CLAクラス
- GLAクラス
- ポルシェ
- 911
- パナメーラ
- ボクスター
- ケイマン
- フェラーリ
- 488GTB
- F8 Tributo
- SF90 Stradale
- ランボルギーニ
- ウラカン
- アヴェンタドール
- アルファロメオ
- ジュリエッタ
- 4C
- ルノー
- メガーヌ
- クリオ
- フォード
- フィエスタ
- フォーカス…など
これらの車種は、主に高性能車やスポーツカー、一部のコンパクトカーにDCTを採用しています。
DCTは素早いギアチェンジと燃費向上の利点があるため、特にパフォーマンス重視の車種で採用されることが多いです。
ただし、車種やグレードによってはDCT以外のトランスミッションも選択可能な場合があります。
また、最新のモデルでは従来DCTを採用していた車種でも、他のタイプのトランスミッションに変更されている可能性もあるため、購入を検討する際は最新の情報を確認することをお勧めします。
DCT車の輸入車・海外でのトラブルは?
ホンダのi-DCD車でこれだけのトラブルが起こっており、他社の車だってリコールをしているだろうと思い、リサーチした結果が次の通りです。
フォルクスワーゲン
- 日本国内
- 対象期間: 2008年から2016年に輸入された車両
- 対象車種
- ポロ: 2010年〜2014年
- ザ・ビートル: 2011年〜2016年
- ゴルフ: 2013年〜2015年
- パサート
- CC
- クロストゥーラン
- クロスポロ
- ゴルフヴァリアント
- ゴルフカブリオレ
- ジェッタ
- シロッコ
- トゥーラン
など、計30車種
一部のフォルクスワーゲン車(7速DSG搭載モデル)でポロ、ゴルフを始めとした2008年4月28日から2016年3月14日に輸入された車両約18万台が対象です。
7速DSG型自動変速機のメカトロニクスにおいて、アッパーハウジングという部品のネジ切り加工が不適切なため、耐久性が不足しているという部品不良に関するトラブル。
アキュムレーターの継続的な油圧変化による疲労の蓄積により、アッパーハウジングに亀裂が発生し、油圧が低下して、最悪の場合、駆動力が伝達されず走行できなくなるというもの。
主に乾式7速DSGを搭載したモデルが対象であり、湿式6速DSGは対象外です。
ホンダのトラブルも万一のことがあったら怖いですが、こちらの方がより深刻のように思えます。
BMW:
- アメリカのみ
- 対象車種
- M3(DCT搭載モデル): 2008年および2009年モデル
アメリカでは、ソフトウェアの不具合によるリコールがありました。
急減速時に、トランスミッションソフトウェアが複数段階のダウンシフトを引き起こす可能性があり、低速時にこれが発生すると、エンジンが停止する可能性があり、事故のリスクが高まることも。
対策として、エンジンとトランスミッションのソフトウェアを無償でアップデートすることで問題を解決しています。
結論として、半クラッチ状態で加熱され停止してしまうのは、一部のホンダ車だけでしたが、上記のDCT搭載車(特にフォルクスワーゲン)にお乗りの方は、キチンとリコール対策するなどして、くれぐれもお気を付けください。
i-DCD車を安全に乗るために
i-DCD車を安全に乗るために、どのようなことに気を付ければよいのでしょうか。
- 山岳路や長時間の渋滞などは、ブレーキを確実に踏んで発進・停止し、長時間半クラッチ状態にならないようにする。
- 渋滞時にスポーツモード(SモードやSPORTモード)が付いている車種は、それを使用し、1速で半クラッチ状態とならないようにする。
- 万一警告が表示されたら、直ちに安全な場所に停車し、アイドリング状態でトランスミッションを冷却する。エンジン止めてはダメ!
- あまり運転に自信のない人が、中古で購入する場合は、できる限りDCT(i-DCD)搭載車を避ける。
Xのポストなどでi-DCD車が動かなくなったというのを知った人は、「i-DCD車=危険」と思ったかも知れませんが、以上のような特性を持ち合わせていることを予め知っておけば、恐れるに足りません!
i-DCD搭載車のトラブルを回避するためには、適切な運転方法と定期的なメンテナンスが重要です。
特に、坂道での渋滞時には半クラッチの多用を避け、車間距離を適切に保ちながら走行することが推奨されます。
また、クラッチやトランスミッションオイルの定期的な交換、システムの点検を行うことで、トラブルの発生を未然に防ぐことが可能です。
これらの対策を実践し、i-DCD搭載車の特性を理解することで、快適で安全なドライブを楽しむことができるでしょう。